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原一男の日々是好日 ―ちょっと早目の遺言のような繰り言―

トップページ > 原一男の日々是好日 > 役者宣言part1「シン・ゴジラ篇」
「シン・ゴジラ」劇場用予告編が公開されている。

実は…と断るまでも無いのだが、私も出演している。チラシの裏に端役に至るまで全員の出演者の名前が掲載されていて、私の名前を見つけた人から「なんで?」という書き込みがツイッター上で散見されていて、ちょっとした話題になっているようだ。そんなこともあって、“出演の弁”を明らかにしておきたい。

“俺は、今後、役者をやりたい!積極的に売り込む!”と宣言した。

と言っても、大々的にやったわけでもなく、ごく親しい友人知人に打ち明けた程度。そのスケールは小さいけれど、かなり本気のつもり。

どういう心境の変化? と聞かれても、何かが劇的に起きてのことではなく、カメラの前で芝居をする楽しさを、自分も追求してみたい、という気持ちが少しづつ募ってきたわけだ。売り込み方だが、監督と知り合い、直接、直談判する、という戦法でいこう、と思い決めた。

その第1弾。2014〜2015にかけてnew「CINEMA塾」を開講。その講座で庵野秀明監督をゲストに呼んだ。講座が終わって彼に「俺、役者、やりたいんだよ。あなたの作品にだしてよ」と声をかけた。「本気でやりたいの?」と聞くから、「うん。本気だよ」と答えた。しばらくして庵野監督がゴジラを手がける、というニュースを知った。覚えてるかな?と不安混じりに彼にメールを出した。「東宝に話を通しておくから」と嬉しい返信。数日後、その東宝から、「出演していただきたいんですが…」と。

ま、そんな経緯で実現することになった。

シナリオが送られてきた。凄く、ぶ厚い!ビックリ。通常、私たちが慣れている台本の厚さの2倍はあるな、って感じ。 役の数も半端じゃない!

一読すると、これまでの“ゴジラ映画”とは、かなり趣が違う。家族向け映画では無く、シリアスな“社会派”という感じ。

私の役はというと、老生物学者。ゴジラという未知の存在の出現に苦悩する総理はじめ政府の役人たち一堂に対して意見する、という内容。台詞は短いもののストーリー上、意味のある役柄だ。ま、役に関してアレコレ言う筋合いはないけどね。役をもらえただけで感謝!

衣装合わせの日。東宝に出向いた。実は、私の出番は、老生物学者だけでなく他の分野の学者共々3人、政府に意見を言うわけだが、他の二人というのが、同業の映画監督の、緒方明と犬童一心。緒方明は日本映画学校時代、共に教鞭を執っていたので顔見知りだったが、犬童一心は初対面だった。私は二人を見ながら秘かに考えた。二人とも、実に堂々たる“怪異な風貌”(?)なのだ。いや、けなしているわけではない。褒めているのだ。私なんか、のっぺりして、なんの特徴も無い平凡な顔つき。二人が羨ましかったのだ。緒方明なんか、白髪交じりの顎髭を豊かにはやしてるし、犬童は、元々が、怪異。3人並ぶと私は絶対に見劣りするだろうなあ! こうなったら“演技力”でカバーするしかないな!と。

さて、撮影当日。東宝の中でも最も広いステージにセットが組んであった。さすが、超大作なんだ! と納得。庵野監督に会う。役を付けてくれた礼を言いたかった。「台詞は入ってますね。テストの時から回していきますからね。」と庵野監督。「はい。大丈夫です!」と私。ホント、自信があった。これまで、今回よりもっと長い台詞を一発OKという実績もあった。だから、まず大丈夫だ、と自分に言い聞かせて、さて、いよいよ撮影開始。本番! 用意! スタート! 学者が3人並んでるわけだが、まず緒方から。台詞も軽く流し芝居もスムース。次は、隣の犬童。これも台詞軽く、芝居もストレート。で、続いて私の番。先の二人が台詞を無難に言ったなあ、よし、俺は腹に力を込めてセルフを言おう、と思い決める。で、目に力を込めて総理以下役人たちを見回してから、おもむろに台詞。決して長くない台詞なのだが、途中までいって、その半分のところで、ひっかかってしまった。ありゃあ、と焦る!「ゴメン!」。平謝りしながら、もう頭は、真っ白! 「はーい。原さん、続いていきますからね。よーい、はい!」。が、2度目もNG。同じところで、つっかえるのだ。3度目、4度目、同じだ。助監督が慌てて近くに寄って台本を私に見せる。目で確認する。「OK」。「大丈夫です。やりまーす」と、トライするが、またまた…。業を煮やしたか、「カメラを回しっぱなしにしておくから、自分でやりよいようにやって」と庵野監督。たしかに「良—い!はい!」のかけ声は緊張する。そこを、外すと、自分のリズムでできるだろう、という配慮。恥ずかしいやら有り難いやら。気持ちは、もはやグジャグジャ。が、「はい。好きにやってください」と言われ、カメラが回り、自分で呼吸を整え、台詞を…が、気分は楽になったが、やはり、つまってしまい、続けてカメラを回しっぱなしで2回繰り返したかな、何とか、最後まで言えた!

フーッ!ホントに、ホッと一息ついた。やれやれだ。「はーい!OK」。

冷や汗だらけだ。後は、続けて切り返しを数パターンとって、終わった。

私のNGの連続のせいで、小1時間は、ゆうに無駄にしてしまった!

ホントに申し分けないという思い。

セットをでたところで、庵野監督にバッタリ。

「台詞、入ってないじゃないですか?」
「役者は、止めた方がいいですね。」

キツーい内容の言葉は、致し方ないとして、庵野監督の表情からは、マジなのか、半分冗談なのか、判別がつかない。ひたすら恐縮するしかなかった。 スタジオからの帰り道、うちひしがれてトボトボと成城学園駅まで、やけに遠かった。が、完成した作品をみれば、多分、いや、絶対に他の二人より私の方が、キチンと芝居をしてるはずだ、と、そう思うことだけが救いだった。いや、無理矢理そう思うことで、自分を慰めたかったのかも知れない…。
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