ジョニー・デップは善人が悪人と戦い、苦痛に満ちた自己犠牲を果たす物語を描いた。原一男は違う。すべての衆生は、 無辜 むこ な少女も偽善者も、悪鬼も、修羅畜生も、ひとしく同じ場所に集うというマンダラに向かいあった。6時間目に入ったあたりで、ほとんど幽体と化した石牟礼道子が首を振り、両手を掲げ、世界の苦痛をすべて吸飲するかのように舞踏を舞う。6時間が長いか、短いか。いまだに公的に認定されずにいる水俣の患者たちの、ほとんど人生に等しい待ち時間に比べると、一瞬のようなものではないか。

四方田犬彦

映画誌・比較文学