「水俣」は既に「歴史の一コマ」だ――ほとんどの日本人がそう思っているだろう。私もそうだった。このドキュメンタリーを観て、「水俣」がまさに現在進行形の問題であることに目を見開かされた。しかも、それは、人権と法の支配の蹂躙、事実の隠蔽と科学的探究の歪みという、いまの日本全体を覆う問題と直結している。6時間超の作品だが、人間の美しさと醜さ、強さと弱さが滲み出る登場人物たちの生々しい言動に魂を揺さぶられ、始めから終わりまでスクリーンにくぎ付けにされた。15年余の歳月をかけて「水俣のいま」を記録し続けた原監督の情熱と尽力に喝采を送りたい。

井上達夫

法哲学者・東京大学名誉教授