水俣曼荼羅では、原一男監督の温厚で優しい感じが印象に残る。それは今までの作品の中でおしなべて見てきたような熱血を帯びて焦燥感に駆られた姿勢ではなく、むしろ柔らかな眼差しと言ったらいいのだろうか。おそらく今作では、監督が水俣病問題を風化させてなるものか、無関心ではいられないだろうと時間を掛けて取り組んでいる中で、長い年月の労苦による被害者たちの弱り果てた心に触れていくうちに、ドラマチックな場面を模索する歯がゆさやもどかしさを越えた、言わば達観の境地に至られたからなのではないだろうか。そう考えると、私たちは水俣病問題の底知れぬ深刻さと長きに亘る重い歴史を、むしろ監督のたまさかに穏やかな視線によってより一層感じ取り、その厳しさを痛切に思い知らされる。だから、水俣曼荼羅は、監督にとって新境地を開いた重要な作品なのだと思う。